編集者のおすすめ本 〈2014年1月〉

編集者のおすすめ本 〈2014年1月〉

 柏艪舎スタッフが、ジャンルを問わず最近読んだ『おすすめ本』をご紹介していきます。

山本光伸
株式会社柏艪舎 代表取締役
愛犬と散歩するのが趣味。歩きすぎて犬が逃げ出すことも…。好きな作家は丸山健二。若い頃は、太宰治の作品にかなり影響を受けた。

今回はお休みです


山本基子
本と映画があれば即シアワセになれる。どれだけジャンクフードを食しても太らない(太れない)特異体質? 週1(夏場は週2)テニスで一応体力維持しているつもり。8歳になる愛犬柴わんこを溺愛。

『大きな音が聞こえるか』
坂木司著 角川書店刊


坂木司氏はデビュー作品の発刊が2002年となっているから、新人作家と言っていいかもしれない。しかしここ四、五年、書店でその名を見ないときはないくらいの勢いである。特に『和菓子のアン』(誰だ、この絶妙なタイトルを考えたのは?)が2010年にハードカバーで登場し、2012年に文庫化されて、ブームに火を点けた感がある。覚えやすいペンネームを持ちながら覆面作家であることも読者の興味をそそる要因となっているかもしれない。が、そんなことより文章がリズミカルでとても読みやすい。それから、私の読んだ5冊のどの作品に関しても、驚くほど詳細で丁寧な事前調査をしてあることが歴然としていて、それがストーリィに深みとリアリティを与えているのだと思う。
 で、今回おススメの『大きな音が聞こえるか』だが、これは、サーフィンに夢中の高校生“泳”が、“終わらない波”と称される伝説の波に乗りたくてはるばるブラジルまで一人旅をする話。泳の父親は、お金で解決できることはお金に任せて人生は楽しまなくちゃ、が信条の、IT産業で成功したチャライ系社長。母親は元ディスコ・クイーン、とバブル最盛期に青春を謳歌した二人である。であるから、そこそこのエスカレーター校に通い、受験の心配もない泳は高校最後の夏というのにヒマを持てあまし、しかしこのままでいいわけはない、真剣に打ち込む何かがほしい、と模索している。そして出掛けた異国の地での様々な体験が、彼を“すこし”大きくする。と、超短あらすじだけ書くと、ありがちな少年成長物語的だが、ブラジルの街々の情景など現地に足を運んでいなきゃ無理だろうとしか思えないほどリアルだし、サーファーたちの会話も実に自然なのだ。鋭い観察眼、豊かな想像力と感性を備えた作者だと感服する。今後、どのような方向に向かうか楽しみだ。


青山万里子
編集者。最近の担当書籍は『落ちてぞ滾つ』、『祭――感動!! 北海道の祭り大事典』、『老人と海』(5月刊行予定)など。その他、今年で10回目を迎える「翻訳コンクール」担当。
趣味は野球(札幌D観戦時はmy glove持参)、ゴルフ、麻雀など日々オジサン化が進行中。実家にいる愛犬タロウ(チワワ11歳)、カイ(キャバリア9歳)に週に1度会うことが楽しみ。

『雪の夜の話』
太宰治 『太宰治選集第3巻』 柏艪舎


 一九四四年に発表された短編。「女生徒」や「きりぎりす」などと同じく、女性のモノローグ形式で書かれた作品。第二次大戦末期に、このような美しい話を生み出すその才能には驚かされる。
 主人公の少女は両親を亡くし、風変わりな小説家の兄と兄嫁と三人で暮らしている。戦時中で食料不足のなか、珍しく知人から頂いたスルメを妊娠中の兄嫁にあげようと、少女は雪のなか家路をたどっていた。しかし、あまりにもきれいな雪景色に見とれているうちに、大事なスルメを落としてしまった。そのとき、彼女は以前兄から聞いた、デンマークの水夫の話を思い出す。人間の目の底には、たった今見た景色が消えずに残っているものだという話を。そして彼女は、自分の目にこのきれいな雪景色を焼きつけて兄嫁に見せてあげようとする。
 “芸術家の使命”の例として講じたという、難破船の水夫が灯台守り一家の幸せな団欒を守るために自分を犠牲にする、といういかにも太宰らしいテーマがこの作品でも語られている。


可知佳恵
編集・営業・広報を担当しています。最近編集を担当した本は、鈴木邦男著『秘めてこそ力』、原子修著『龍馬異聞』、山本光伸著『誤訳も芸のうち』など。好きな作家は、コナン・ドイル、アーサー・ランサムなどですが、最近は仕事に関係する本ばかり読んでいます。

『君たちはどう生きるか』
吉野源三郎著 岩波文庫


 時代を超えて読み継がれていくべき名著。コペル君の成長と叔父さんとの対話を通じて「人はどう生きるべきか」を問う。タイトルから難しそうな印象を与えるが、もともと子供向けに書かれたもので、中学生のコペル君の友情物語に引き込まれていくうちに、自然に道徳的な問題を考えさせるようになっている。
 初版は1937年に『日本小国民文庫』(全16巻)のうちの1冊として刊行された。山本有三氏が書く予定だったものを、目の病気が悪化した山本氏に代わって編集者だった吉野氏が書いたものというから驚きだ。解説は丸山真男氏。満州事変後、軍国主義に染まり、言論の自由が制限されていく中で、次の時代を担う少年少女に希望を託した出版人たちの想いが込められている。現代の少年少女にもぜひ読んでほしい一冊。


山本哲平
編集部所属。製作主任。自費出版系の作品を主に担当。仕事絡みの本以外、なかなか読む時間が取れない。ので、書評の題材に困りそう。

『神取流 いじめ解消術 弱者の吠え方』
神取忍著 柏艪舎刊


 一時期に比べ、『いじめ』問題が世間を騒がせることが無くなってきたが、これはいじめ自体が無くなった訳ではなく、ニュースに取り上げられなくなっただけだろう。
 私は、『いじめ』という行為は人間が存在する限り無くならないと思っているし、道徳教育でなんとかなる問題でもないと思っている。
 大人になって会社でいじめをするようなバカは救いようがないものの、いじめられている側も対抗手段を取れるだけの年令なのだから置いておくとして、小中学生でいじめを行なう連中は動物と同じように躾ける他ないと思う。
 こいつらは痛い目を見ないと自分の行為に気付かないのだから。
 そこで、いじめられている者、いじめを傍観している者がどうすればいいのかを記したのが、本書『弱者の吠え方』だ。
 いじめ行為の証拠の掴み方から証拠の利用法をさまざまな視点から記し、いじめ被害者がどうすれば自由になれるのかが書かれている。
 加害者にも人権があると主張するお優しい方々には受け入れられないだろうが、私は、被害者を少しでも早く救える方法を提供している本書に賛同したい。





  

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