新老楼快悔 第125話 時代を切り取った凄い書道展

新老楼快悔 第125話 時代を切り取った凄い書道展


 歴史ものの作品を書いているせいか、自分が取り上げた人物がどんな字を書いたのだろうか、と思うことがある。以前、黒田清隆の筆字の便りを見て、その豪快さに、膝を叩いた記憶がある。
 札幌市中央区の小原道城書道美術館で開催中(2024年3月31日まで)の「蝦夷地から北海道へ 時代の群像の書展」を見て、圧倒される思いだった。表題の通り、北海道ゆかりの著名な人物の書が会場いっぱいに並んでいる。それも年代順に区切って三室に展示されているのだ。
 第一室はまず堀利煕の書。幕末期の箱館奉行で、後に外国奉行となるが、外国との通商航海条約交渉中、憤激の挙げ句、自決した。書は死ぬ三年前のもので、見事な筆致からその人柄が浮かび上がる。次は松浦武四郎の作品が4点。うち3作は軸装で、残る1点は奉納鏡の拓本。作品からその奇才ぶりが伺える。
 続いて石井漂香、松浦武四郎、頼三樹三郎、南摩綱紀、栗本鋤雲、林董、山田顕義……と歴史でお馴染の人物の作品が並ぶ。三樹三郎は蝦夷地を訪れ、江差で出会った松浦武四郎と「百印百詩」をやり遂げたことで知られる。
 第二室は榎本武揚の作品6点。筆遣いの妙というべきか。作品の字体がすべて違うのが印象に残る。そばに大鳥圭介、永井尚志の作品が並んでいて、箱館戦争を戦った武士(もののふ)たちの影が匂い立つ。
 第4室は東久世通禧、岡本監輔、島義勇、松本十郎、岩村通俊、黒田清隆、湯地定基、福島種臣、北垣国道、渡辺千秋、泉麟太郎、佐藤昌介、新渡戸稲造の作品が並んでいる。北海道の開拓期を牽引した人たちが勢ぞろいした――、そんな印象を抱いた。
 新渡戸は『武士道』の著者として知られる。アメリカ留学中、師から「日本人は何を根拠に生きるのか」と問われ、「武士道こそ日本人の規範である」と考え、執筆したのが著書『武士道』。これが世界各国で出版されて話題となり、ひと巡りしてわが国でも出版された。
 第三室に戻ってここは小原道城書画展と中国拓本展、中国印材展。小原道城氏は当館所有者で、書だけでなく、絵も描く才人として知られる。書4点、絵5点が展示されているが、絵にはそれぞれに翻字が書かれていて、味わい深い作風を感じさせる。
 さて、この展覧会の期間中に、講演をしてほしいと依頼され、おそるおそる承諾した。講演は3月2日午前11時から1時間。演題は「書が伝える歴史の足音」とした。先人の想いをどう伝えられるか、胸の高鳴りを抑えながら、その日を待っている。




2024年2月2日


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