新老楼快悔 第108話 故郷を訪ねて感じたこと

新老楼快悔 第108話 故郷を訪ねて感じたこと


 ほっかいどう学を学ぶ会は、北海道の歴史や文化を学ぶ人たちで構成された団体で、毎年、道内各地を回っている。今回も晩秋の休日、「第20回歴史バスツアー~中空知の炭鉱を巡る旅」に参加して、赤平市、歌志内、そして上砂川町を訪れた。
 実は上砂川町は筆者の生まれ故郷であり、20年ぶりの帰郷になる。その後、町はどうなっているのか、わが家の跡地は……、という思いと、倉本聰さんの作品「昨日、悲別で」の舞台となった旧上砂川駅舎がいまもあるのかという郷愁にも似た思いが溢れた。
 倉本さんと知り合ったのはフジテレビ系列のUHB(本社札幌)編成部長で、フジから「北海道を舞台にしたドラマを制作したい」と伝えられて身震いするほど驚いたものだ。
 撮影が始まる前から、何度も富良野の倉本家を訪れた。主演の田中邦衛さんを案内したり、全国各地からきた20社近い新聞記者を誘導して撮影現場に赴いたり。放映が始まると毎週、倉本家に電話を入れて聴取状況を説明するなどこまごまと動いた。
 作品は大当たりし、テレビ界の話題をさらった。その後も「北の国から」は年一回の単発ドラマとして放映され、そのたびに爆発的な人気を呼んだ。
 そのころUHB単独でドラマを作ろうという話になり、倉本さんにお願いした。計画は結果的には潰れたが、この間、何度も会話をする機会に恵まれた。その時の雑談がヒントになってか、後に私の故郷を舞台にした「昨日、悲別で」が生まれることになる。



 上砂川の町はひめやかに息づいていた。毎朝6時発の汽車に飛び乗り、岩見沢まで通学した駅舎は、向きは変わったがそのままの形で建っていた。だが一条通と呼ばれた中心街はかつての面影もない。かつてのわが家をバスで通ってもらったが、一瞬にして通り過ぎた。作品で「かなしべつロマン座」として登場する映画館は、「空知座」と呼ばれ、私の家から200メートルと離れていない。空知座の息子で同級生だった村中君はいま、どこに。そんな思いが頭をもたげた。なにも変わらないのは背後の山並みだけ……。
「かなしべつロマン座」は隣町の歌志内市神威に建っていた。少年期に見た建物とは当然、違う。だが観光客が大勢訪れるとかで、それらしい痕跡が残されていた。
「空知座」は少年時の“夢の園”だった。映画がかかるたびに村中君の部屋に行く。宿題を済ませて扉を開くとそこは映画館の二階席。たっぷり堪能した後、決まって菓子が出た……。故郷を去って70年。そんな胸が痛くなるような思い出を味合わせてくれた故郷に、感謝の言葉もない。




2023年10月20日


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