新老楼快悔 第100話 絶対に消えることのない“あの日”

新老楼快悔 第100話 絶対に消えることのない“あの日”


 また8月15日が巡ってきた。あの日、故郷の炭鉱町で、我ら学童たちは、前日で終焉したサーカス小屋の解体作業を見ながら、近所の家のラジオの前で正午に流れた天皇陛下のお言葉を聞いた。だが何を話しているのか理解できなかった。
 自転車に乗った僧侶が「日本は負けた。早く家に戻って母や姉を守れっ」と叫んで駆け抜けた。驚いて帰宅し、初めて日本が戦争に負けたことを知った。日本は神国だから絶対に勝つ、いまに神風が吹く、と先生に言われていたので、信じて疑わなかった。
 しかし実際は、東京など大都会が空襲を受け、北海道もB29機の空襲に晒されていた。“銃後”の人たちは、竹槍訓練をしたり、消火用の水を運ぶバケツリレーの訓練をしたり。そんな中、広島、長崎に新型爆弾が投下されて大勢の死者が出ていた。
 手元に戦争当時のポスターがある。大政翼賛会と大日本青少年団本部が制作したもので、上部に笑顔の兵士、鉢巻きの少女、学帽と鉢巻きの少年が見え、「さァ米英へ突撃だ」
「大東亜青少年総蹶決起運動 12月8日―1月9日」と記されている。12月8日は開戦の日であり、戦いを鼓舞するのが狙いなのは明白だ。
 これを眺めて、「勝った、勝った、また勝った」と報道されるラジオや新聞に狂喜した暗い記憶が蘇った。
 いま世界は戦争に巻き込まれている。それを実感しつつ、人間がこの地球に存在するかぎり、戦争は決してなくならないという思いを強くし、悲嘆に暮れた。
 プーチンも、ゼレンスキーも、バイデンも、そして核弾頭を撃ちまくって意気盛んな金正恩も。いや、それだけでない。岸田だって場合によっては、やりかねない。
 戦争をして喜んでいるのは戦争産業だけ。軍人だって本当は戦争など望んでいない。わが国の自衛隊は文字通り自衛を目的とした組織であり、戦地へ赴くためのものではない。とはいえ、攻撃されたら黙って手をこまねいているわけにもいかなくなる。
 だからこそ外交が大事なのだ。外交という名の話し合いこそ、いま世界が求めている最重要テーマと断言できるの。なのにそれができないとは、情けない限りだ。
 地球は人間だけのものではない。黙って耐えているほかの動物たちに申し訳が立つのかなどと、血迷ったような妄想に明け暮れるきょうこの頃である。


2023年8月18日


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