新老楼快悔 第99話 生首事件が教えるもの

新老楼快悔 第99話 生首事件が教えるもの


 7月2日、札幌市中央区ススキノのホテルで起こった恵庭市の男性(62歳)の殺人事件は、生首が切られて持ち去られていたことから、稀に見る異常犯罪の様相見せた。札幌中央署捜査本部は、札幌市内の女性(29歳)とその両親を逮捕し、追及する思わぬ展開となった。
 捜査本部は鋭意、取り調べを進めているが、これまで明らかになったところによると、この二人は今春ごろから知り合い、しばしばホテルを利用するなど関係を深めていた。だが女性が男性に暴力を振るわれたことから、両親も犯罪に関与していったとする見方が強まった。
 それにしても首を切り落とすという残忍な手口を見ると、その背景に想像を絶する何かが潜んでいるに違いないはずだ。
 以前、『昭和戦前の事件簿 現場検証』という本を書いた時、よく似た事件にぶつかり、おののいた思い出がある。
 それは昭和7年(1932)3月7日朝、東京府(当時)南葛飾郡寺島町玉の井の下水溝にハトロン紙の包みが浮いているのを付近の人が見つけ、近くの巡査派出所に届け出た。開いてみると中から男と思われる斬られた胸部が出てきた。驚いた警察官が現場に駆けつけ、さらに3つの包みを発見し、中から生首、体、腰の部分を発見した。
 この玉の井地帯は売春街で、被害者を特定するのに手間取ったが、秋田から出稼ぎにきていた男(27歳)と判明。犯人は殺された男の妻(30)の二人の兄弟(33、23)と判明、逮捕した。
 調べによると男は讒言を繰り返し、別れ話が出ると妻に暴力を振るった。2月11日夜、兄弟がいるところでまた喧嘩になり、妻を殴ろうとした。兄がやにわにスパナで男を殴りつけ、弟が背後からバットを振るって殺害。死体を台所の床下に投げ込んだ。
 3日後、兄弟は、死体を箱に入れて運ぼうとしたが重くて運べず、鋸で死体をばらばらに切断し、3つの包みにして玉の井のどぶに捨てたのだった。
 時代も、境遇も、状況も、まったく異なるが、肉親の女性が、相手の男のために苦しんでいるのを見かねたうえの犯行という点に、共通点を見いだすことができる。
 60代男と20代女の、火遊びの果てに起こった凶悪犯罪。ススキノ事件は今後も起こりうる犯罪として、注視していかねばなるまい、と思う。


2023年8月11日


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