新老楼快悔 第93話 ウポポイ見学ツアーに思う

新老楼快悔 第93話 ウポポイ見学ツアーに思う


 先日、「ほっかいどう学を学ぶ会」主催のバスツアーに同行して、白老町のウポポイを訪ねた。曇り空で、時折雨も降る生憎の天候だったが、参加者の意欲的な学習ぶりに圧倒される心地よい旅となった。
 「ほっかいどう学を学ぶ会」はもともと、ほっかいどう学検定推進機構の「ほっかいどう学検定」試験に合格した人たちで組織されているもので、毎年春と秋に総会と研究発表会を開いているほか、日帰りや一泊ツアーを催している。発足して10余年。近年は検定合格に関わりなく、北海道史に関心のある方なら誰でも入会ができるよう門戸を広げている。会員数は160人。全道に会員がいる。
 私は、ほっかいどう学検定推進機構ができた段階から、検定問題集の制作、検定試験の実施、合否の判定、合格者の集い、学ぶ会の設立とすべてに関わってきたので、いまも会員諸氏と仲良くさせてもらっている。
 さて、今回のツアーは土曜日の朝8時半、札幌の中央バス前を出発。車中の講話はウポポイ見学とからみ、アイヌ民族にまつわる話にした。一つは新聞社に入社した私が釧路支社に転勤し、市役所詰めになった時、初めてアイヌ民族の高橋真記者がいるのを知り驚いたこと。そして真記者との対立。だが真記者には終戦直後、「アイヌ新聞」を制作し、占領軍司令官にアイヌ民族の暮らしを訴え続けた経緯があった。だが占領軍が撤退するとすべて無と化し、絶望して記者を辞め、アイヌのために筆を執りつづけたのだった。
 次は白老で医院を開き、貧しいアイヌ民族の家々を訪問して医療を続けた同じ姓の高橋房次医師。その行為に感激した人々が基金を集めて胸像を建立した話。続いて登別生まれの若いアイヌ女性、知里幸恵のノート(復刻)を回覧し、繊細な文字からその人となりを偲んだ。
 ウポポイに到着して、少人数のグループに分かれて場内を回る。久々のツアーなので参加者の笑顔がはじけた。私も湖畔に建つアイヌの家を訪ねた。民族衣装をまとった若い女性がこんな話をした。
「私はアイヌです。アイヌの衣装を着ていますが、家に帰ったら皆さんと同じような服装です。ここはアイヌの歴史を学ぶところ。よく見ていってくださいね」
 ふいに亡き萱野茂さんを思った。出会ったのは50年も前。突然こう言われたものだ。
「たったいま、北海道から出て行きなさいといわれたら、どうします?」
 驚き、戸惑いを見せたら、「冗談ですよ」と言って笑い、続けた。
「もっとアイヌと普通に付き合ってください。それだけなんです、われらの望みは」
 ぎくっ、となった。普通に付き合う――、それがどれほど重いことなのか。先住民に対するわれら和人に課せられた意味を、また思った。


2023年6月30日


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