新老楼快悔 第73話 世相を風刺するすごい「歌」がほしい

新老楼快悔 第73話 世相を風刺するすごい「歌」がほしい


 どんな時代にも、世相を痛烈に皮肉る人物がいた。例えば、明治、大正期に街頭に立って歌で世相を風刺した演歌師、添田啞蝉坊(あぜんぼう)などその典型であろう。



  貧乏でこそあれ日本人はエライ
  それに第一辛抱強い
  天井知らずに物価はあがっても
  湯なり粥なりすすって生きている
  ア、ノンキだね(「ノンキ節」1918年)

 路傍の片隅で、三味線に見立てたカンカラ三味線を抱いて飄々と歌う。自作自演の独り芸だ。立ちどまった人が思わずにやりとして、歌詞入りの歌本が飛ぶように売れたというから、その人気のほどが伺える。

  又(また)しても 米は騰(あが)るし子は出来る
  不景気つづき 家賃にゃ追われる暇は出る
  家にゃ妻子が泣きっ面
  娑婆に居(い)るのが恐ろしい チョイトネ(「むらさき節」1910年)

 『添田啞蟬坊 知道 演歌二代風狂伝』(木村聖哉著)という本によると啞蝉坊の本名は平吉。知道はその長男で、親子二代、自ら歌を作り、街頭で歌い、唄本を売って生計を立てる道を、百年にわたって歩き続けた。



 風俗文化史というジャンルがあるとしたら、啞蝉坊こそ、レコードもラジオもないこの時代の大スターと言っていいだろう。
 と、そこまで考えて、この歌詞がなぜが物価高の現代にも通じるように感じられて、思わずうーむと唸ってしまった。

  ああわからないわからない 今の浮世はわからない
  文明開化だというけれど 表面ばかりじゃわからない
  瓦斯や電気は立派でも 蒸気の力は便利でも
  メッキ細工か天ぷらか 見掛け倒しの夏玉子
  人は不景気不景気と 泣き言ばかり繰り返し
  年がら年中火の車 廻しているのがわからない(「ああわからない」1906年)

 こんな人物が出ないかなあと思っていたら、先日、岡大介という歌手が札幌と苫小牧でライブを開いた。その時の岡の自作自演がぐさりと胸を突いた。

  後手後手対策もう聞き飽きた
  煽り庶民を困らせる
  丸投げ逃げ出し政治家に
  つけるワクチンないものか
  ア、ノンキだね

 万雷の拍手と笑いの中で、幕。いいですねぇ、この心意気! 小気味よさ!


2023年1月31日


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