新老楼快悔 第53話 どこまで対処すればいいの?

新老楼快悔 第53話 どこまで対処すればいいの?


 地球の自然環境が少しずつ悪化しているという。排出ガスが増えて空気が汚れ、それが原因で病気になる人が多いそうだ。また浜辺に捨てられたプラスチック製品のゴミが、海中に流されて浮遊し、それを魚類が誤って飲み込んでしまったケースが確認されているという。温暖化の影響で北極のぶ厚い氷が融けて崩れるニュース映像を見て、震え上がったものだ。
 地球は人間だけのものではないのに、人間の勝手で地球は悲鳴を上げている、と研究者たちは口を揃えて言う。このままではだめだ、とさまざまな団体や個人が立ち上がり、コンビニなどで売られている弁当などのプラスチック製品を排除する動きが急速に進んでいる。
 さて、話は変わるが、先日、ある会合で驚くべき光景を目の当たりにした。出席した男性の一人が、小さな小箱のようなものを机の中央に置いた。片面に数字が出えるが、時計ではない。なんだろうと思っていたら、突然、ピーという音を発した。するとその男性が、「部屋の窓を少し開けてください」と言った。
 この日は雨模様で、少し肌寒い感じだったが、部屋の主が言われた通り、窓を開けた。少し経って、「もういいですよ」の声で窓が閉められた。
 何度かその行為が繰り返されたので、おそるおそる質すと、
「これ、携帯用のCO2の測定器なんです。1000PPMになったら危険を知らせる信号が鳴り、空気をきれいにするために窓を開けるのです」と男性は説明した。
 なるほど。人が集まり、呼吸をしただけで空気は汚れる。新型コロナをはじめ、インフルエンザなど感染症を防ぐには、自分自身がその対策として、空気の洗浄を心がけねばならない、というわけ。
 こうした測定器は、小中学校などでも使っているそうで、知らぬは我ばかり、という恥ずかしい話になった。
「アマゾンで3000円で売っていますよ」
 と男性は教えてくれ、同席していた人たちも、同調する雰囲気だったが、私は何か釈然としないものを感じた。人間の英知は計り知れないものがあり、必要に応じて何でも作り出していく。それはとてもありがたいことなのだが、次々と問題を征服していくその果ては…、と思うと、なぜか背筋が寒くなる。

 家電量販店に行くと空気除菌脱臭機やら還元水素生成器やらがずらりと並んでいる。便利なものはありがたいが、それだけで問題は解決するのだろうか。人間社会に存在する自動車も、飛行機も、電信も、破壊器具も、そのほとんどが人間同志の戦争に用いるために作られたものという事実を思う時、はたと考え込んでしまうのだ。



2022年8月26日


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