新老楼快悔 第48話 靖国神社に残る特攻隊員の遺書

新老楼快悔 第48話 靖国神社に残る特攻隊員の遺書


 東京・靖国神社の遊就館を訪れると、第2次世界大戦で死んでいった特攻隊員を含む多くの戦死者の写真が壁面いっぱいに張りめぐらされていて、圧倒される。少年期に戦時体験をしたせいか、何かを語りかけてくるように思えて胸迫る。靖国神社に現存する多くの遺書の中から、何通かを紹介する。



 古川正崇海軍少佐(23歳)=奈良県出身、大阪外語大、海軍飛行科予備学生 海軍特攻振天隊、昭和20年5月29日出撃、沖縄島周辺で戦死。

戦死する日も迫って、私は短い半生を振り返ると、やはり何か寂しさを禁じ得ない。死と云ふ事は日本人にとつてはそう大した問題ではない。その場に直面すると誰もがそこに不平もなしに飛び込んでゆけるものだ。
然し私は、私の生の短さをやはり寂しむ。生きると云ふ事は、何の気なしに生きてゐる事が多いが、やはり尊い。何時かは死ぬに決まっている人間が、常に生に執着を持つと云ふ事は所詮自然の妙理である。神の大きい御恵みが其処にあらはれている。
子供の無邪気さ、それは知らない無邪気さである。哲人の無邪気さ、それは悟り切った無邪気さである。そして道を求める者は悩んでいる。死ぬ前に指揮所から出て行く搭乗員、それは実際神の無邪気さである。
 
    雲湧きて流るゝはての青空の その青の上わが死に所

 遠藤益司海軍大尉(23歳)=福島県出身、日本大、海軍飛行科予備学生 第一神剣隊、昭和20年4月6日出撃、沖縄島周辺で戦死。

父上様、母上様、時間ナキ為最后ノ便リヲコレニテイタシマス。特攻隊ノ一員トシテ出撃ニ際シ、コレヲ御送リ致シマス二十数年ノ御慈愛ヲ深ク御礼申上マス。
母上様、
とても世に逢ひ見むことの難ければ夢こそ今は頼みなりけり
春されば祖国のさくらに魁けて笑って散る吾身かな
一、金銭貸借関係ナシ 一、深キ女性関係ナシ 一、国文在隊中ノ下宿へ通知、礼状願ヒタシ。

 鹿野茂海軍中尉(22歳)=茨城県出身、中央大、海軍飛行科予備学生 神風第三草薙隊、昭和20年4月28日出撃、沖縄島周辺で戦死。

明朝出撃と決定。俺の名前も出た。何をする間もない。心残りは、面会せず、休暇もなくして出撃すること。家の人はおそらくこれ以上であらう。然し これが戦の姿である。
父上、母上、兄上 こゝまで書くと涙が出る。姉上、妹、弟、皆元気でやれ。後でトランク、荷物が届くと思ふ。今、それを作ってゐる。






2022年7月22日


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