新老楼快悔 第42話 ガムを噛むと頭がよくなる?

新老楼快悔 第42話 ガムを噛むと頭がよくなる?


 先日、スーパーの陳列棚を眺めながら歩いていたら、商品のチューインガムの表装紙に「記憶力を維持する」と書かれているのを見て、思わず手に取った。目を凝らして小文字を読んでみると、「これを噛むと記憶力、ことに言葉や図形などを覚え、思い出す能力を増す」とあり、「中高年向き」と記されていた。
 脳が日に日に衰えて、昨日のことも忘れるような毎日だけに、こいつはありがたいと、早速購入して、一枚噛んでみたら、何となくすっきりした気分になった。
 そんな話を周囲にしたら、「驚くことはない。ストレスを低減させるチョコレートもあるし、目がよく見えるようになる菓子もある」という。「まあ、一種の誇大宣伝みたいなもの。そんなのに頼るとは笑止千万」と笑われてしまった。
 今朝、新聞を広げたら「脳」の話が出ていた。作家の久間十義氏が著書『死の医学』(駒ケ崎朋子著)を『脳科学で迫る「神秘体験」』の見出しで紹介したもので、臨死体験やら体外離脱まで、脳の不思議なメカニズムを説いている。それによると脳には三つの領域があり、境界を接する部分が活動することで引き起こるのだという。ふーんと唸ってしまった。
 コロナ禍の最中、東京に住む孫(27歳)が久しぶりにやってきた。T大学大学院を卒業して、いまはIT・経営コンサルティング会社に勤めている。



「お祖父さんにお土産!」
 と言って手渡されたのが手拭い。大学在学中に、在籍した専攻科の学生たちが考案し、制作した「脳マップてぬぐい」なのだという。



 脳について手軽に学ぶ、をコンセプトに制作された手拭いだそうで、説明書によると頭は、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の部位から成り、手拭いの模様に従って頭に被ることを勧めている。被っただけでその部位がわかるというわけだ。
 ほほう、なるほど、などと面白がりながら、手拭いを頭に被ってみたが、あまりうまくいかない。結局、枕の上に敷いて寝てみたが、何の変化もない。
「お爺さん、それは脳について実践的に学ぶもので、被ることで脳の部位がわかるの」
 そう諭されて、「はい、わかりました」と降参した。
 それにしても脳がどうなっているかなど、考えもせずに生きてきた。88歳の超高齢のわが身を思いつつ、わが脳が突然、瓦解することのないように、と祈るばかりである。


2022年6月6日


老楼快悔トップページ
柏艪舎トップページ