新老楼快悔 第35話 氾濫するカタカナ文字

新老楼快悔 第35話 氾濫するカタカナ文字


 テレビの画面、新聞や雑誌などで、カタカナ文字が氾濫している。それがロシアのウクライナ侵攻と同時に急激に増えた。プロパガンダと称する政治宣伝が激しくなる中で、ロシア軍に攻撃のたびに、聞いたことのない町の名が次々に飛び込んでくる。
 ある日の新聞の記事はこんな具合だ。

 ロシア国防相は20日、ウクライナに対し、市街戦が続く南東部マリウポリから軍を撤退させ、市を明け渡すよう要求した。同国のベレシチューク副首相は21日「武器を置かず、街からも出ない」と要求を拒否した。両国メディアが報じた。

 文中、カタカナ文字は24文字、全体が84文字だからほぼ30パーセントを占める計算になる。そのうち地名の呼び名がロシア読みからウクライナ読みになった。いささかめまいを感じながら、手元の日本語倶楽部著『「字源」の謎にこだわる本』(雄鶏社刊)をめくっていたら、面白い文面にぶつかった。
 明治4年からほぼ2年間にわたった岩倉使節団の欧米視察旅行の公式記録である『米欧回覧実記』(久米邦武編著)に、久米が外国の地名を漢字に直した例が次のように記されていた。
  「落機」―ロッキー 「達迷斯」―テームズ川 「市高俄」―シカゴ(チカゴ)
  「威尼斯」―ベニス 「閣竜」―コロンビア 「維納」―ウインナ
 ほほう、と感心しながら、使節団が初めて出くわした横文字地名によほど難儀したろうと思いをはせた。
 明治維新以来、わが国は、諸外国との交流の深まりにより、外国名を漢字で表記するようになった。アメリカは米、イギリスは英、ロシアは露、フランスは仏、イタリアは伊、ドイツは独といった具合だ。ちなみに中国は支那の頭文字を取って支である。
 昭和戦前の新聞を見ると、欧米からの解放を叫んで進撃した南方地域の国名が随所に出てくる。代表的なのはフィリッピンの比国の文字。おやっ、と思うのが「南仏印」。フランス領インドを指し、フランスが支配しているのを意味する。
 ひるがえってカタカナ文字が溢れる現代、これを漢字に直したら、どうなるだろうと考えた。ロシアは露だが、ウクライナのキーウ(キエフ)は何とする。受暗奈の木伊宇か。隣国のポーランドのワルシャワは放蘭度の悪斜和か。
 登場する人物の名前も何とかしたい。
「露の富沈と受暗奈の是連好の停戦合意により、戦闘作戦は中止に。米の売伝の出番はないままに終幕」。なんてことになればいいのにと、混乱した頭を抱えてお祈りしている。
 念のために申し添えるが、富沈はプーチン、受暗奈の是連好とはウクライナのゼレンスキー、売伝はバイデン、を指す。いや、失礼申した。




2022年4月11日


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