老楼快悔 第14話「塾生たちが残してくれたもの」

老楼快悔 第14話「塾生たちが残してくれたもの」


 年末になると出版社から電子書籍の「印税報告書」が舞い込む。このうち『日本猟奇・残酷事件簿』というノンフィクション作品は、20年も前に「一道塾」の塾生たちとともに書いたものだ。
 道新文化センターの「一道塾」はノンフィクション作家を目指す講座なので、塾生にテーマを与えて、取材―執筆に励んでもらっている。現在進行中なのは「小説を旅する」と「ミュージアム散歩」。前者は北海道を舞台にした小説を取り上げる、後者は道内のミュージアムの紹介。完成作品はインターネットで連載の形式で公開している。
 話を戻して最初のころは、本を出すことを最大の目的としていた。「出版社が飛びつくような作品とは何か」と話し合った末、到達したのが『日本猟奇・残酷事件簿』。そのころ何冊か出していた扶桑社の編集者に頼み込み、事情を話して出版にこぎつけた。
 メンバーは専門学校生、会社社長、元教員、システム・エンジニア、公務員、それに大学講師をしていた私の6人。苦労を重ねてようやく出版物を手にした時の喜びの表情が、いまも瞼に浮かぶ。
 歳月が流れて、塾生の顔ぶれは何度も変わり、その間に作品を雑誌に連載したり、書籍にしたりと変遷を重ねた。この間に意外な事が起こった。電子書籍の時代がやってきて、前述の『……事件簿』もその一冊になったのである。
 そのうち印税が送られてきた。僅かな金額だったが、いささか驚いた。そのことをかつての塾生の一人に話したら、「先生がもらうべきです」とやんわり断られた。
 それから8年間。毎年決まった時期に必ず少額だが印税が送られてくる。平成30年末の1年間の販売実績はダウンロードの回数が58回で、印税4,738円。これまでの売上総額は3万円とある。
 支払いは年末。銀行振り込みなので、あまり気にしていなかったが、考えてみるとこれは、毎年毎年、かつての塾生たちから、プレゼントを戴いているようなものではないか。
 離れ離れになっていまは消息のつかない人もいるが、いつの日かあの時のメンバーを招いて、夕食でもともにしようか。いや、代は異なるけれど、本を出した塾生が8人もいるではないか。何かの機会に、かつての塾生に呼びかけて、いまの塾生を合わせて、大パーティーでも開こうかなどと、正月酒のぼーっとした頭で考えている。



 
2019年3月18日


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