編集者のおすすめ本

編集者のおすすめ本


柏艪舎スタッフが、ジャンルを問わず最近読んだ『おすすめ本』をご紹介していきます。

山本光伸
株式会社柏艪舎 代表取締役
愛犬と散歩するのが趣味。歩きすぎて犬が逃げ出すことも…。好きな作家は丸山健二。若い頃は、太宰治の作品にかなり影響を受けた。

『秘めてこそ力』 
鈴木邦男

 
 1972年に新右翼組織「一水会」を組織した著者は、それ以前・以降と一貫して民族活動に身を呈してきた。右翼と聞いて、眉を顰める人も多いだろう。街宣車で喚きちらし、何かあれば直ぐに凄んでみせる連中をもし”右翼”と呼ぶならば、鈴木邦男は決して右翼ではない。日本という国を理屈ぬきで好きな、いち”愛国者”なのだ。
 しかも彼は、「人は群れるから弱くなるのだ」と信じ、ヴォルテールの言う「君の意見には反対だが、それを言う権利は命に代えても守る」という立場を、徒手空拳、本当に命を賭けて貫こうとしているのだ。言うは易く、行なうは難し。気負うことなく、生き急ぐことなく、粛々とわが道を行く著者の清清しい生き様を本書を通してはっきりと知ることができる。
 日本の中の世界、世界の中の日本。この二点を踏まえて立つ著者の発言は、これからますます重要性を増すことだろう。


山本基子
本と映画があれば即シアワセになれる。どれだけジャンクフードを食しても太らない(太れない)特異体質? 週1(夏場は週2)テニスで一応体力維持しているつもり。8歳になる愛犬柴わんこを溺愛。

『象の消滅』
村上春樹著 

(『パン屋再襲撃』文春文庫に収録)

 実は私、中途半端なハルキストです。村上作品はまあ大抵読んでいるのになぜ“中途半端”かと言うと、とにかく読んだそばからストーリィを忘れてしまう。歳のせいか?悔しいけどそれは大きな一因です。が、昔からどうしてだか村上作品に限ってその傾向が顕著なのです。『1Q84』(Book I)だって発売当日にゲットし、電車を待つあいだに読み始め、20分走った所で初めてマチガイ電車に乗っていたことに気づいたぐらいで、それほど夢中になって読みふけったのに、Book IIを入手した時点で既に私の頭の中はミルキーな靄で満たされており、また巻Iを読み直さねばならなかったのです。
 ナゼなのだァ?と深く追求するほど残り人生長くないので、どうやら村上作品は私を半覚半睡状態にする麻薬作用があり、おかげで私は何度読み返しても夢見気分に浸れておトク!と納得。
 と、前説が長くなりましたが、今回おすすめの短編小説、初出は1985年8月号の『文學界』です。あらすじは言いません。年老いた象と年老いた飼育係がある日忽然と姿を消す話。いいです。30代半ばの作者のあふれる想像力による短編はどれもおススメですが、『象の消滅』の英語版がこの4月からNHKのラジオ講座で取り上げられているので、ぜひ、原作と英語訳を比べて楽しんでみてはいかが?


青山万里子
編集者。最近の担当書籍は『落ちてぞ滾つ』、『祭――感動!! 北海道の祭り大事典』、『老人と海』(5月刊行予定)など。その他、今年で10回目を迎える「翻訳コンクール」担当。
趣味は野球(札幌D観戦時はmy glove持参)、ゴルフ、麻雀など日々オジサン化が進行中。実家にいる愛犬タロウ(チワワ11歳)、カイ(キャバリア9歳)に週に1度会うことが楽しみ。

『親友交歓』
太宰治著


1946(昭和21)年発表(当時太宰37歳)。太宰の故郷である青森県・金木町を舞台にした短編です。太宰といえば、『人間失格』や『斜陽』のイメージが強いかもしれませんが、じんわりと胸が熱くなるような作品や、身につまされる話、お伽草紙など、短編も幅広く面白い作品が数多くあります。太宰の短編で特徴的なのは、アフォリムズに富み、最初と最後の一行が印象的だということでしょう。この『親友交歓』もそういった作品です。生家に疎開している私(太宰)のもとに、ある日、同級生と名乗る男が訪ねてきます。家に上がり込んで長時間酒を飲み、訳のわからない話をしつづけた、その見覚えのない男が最後に私に言い放つ一言、これにはどきりとさせられます。“太宰は女々しくて暗いからイヤ”、そんなイメージを持っている人にこそ読んでもらいたい短編の一つです。


可知佳恵
編集・営業・広報を担当しています。最近編集を担当した本は、鈴木邦男著『秘めてこそ力』、原子修著『龍馬異聞』、山本光伸著『誤訳も芸のうち』など。好きな作家は、コナン・ドイル、アーサー・ランサムなどですが、最近は仕事に関係する本ばかり読んでいます。

『だれがタブーをつくるのか――原発広告・報道を通して日本人の良心を問う』
鈴木邦男+本間龍

 一水会顧問の鈴木邦男さんと、元博報堂社員の本間龍さんの対談本です。本間さんが以前出版された『電通と原発報道』(亜紀書房)の発売後のイベントでお二人が対談されたのをきっかけにできた本です。発売前から話題になっていて、気になっていました。鈴木邦男さんが送ってくださったので、さっそく読ませていただきました。
 本書を読んでいて、日本は腐りきっていると思って悲しくなりました。金の力に屈服して、良心も正義もどこかへ忘れてしまっている。こんな国は救いようがない、もうなくなってしまえばいい、とさえ思いました。
 広告代理店はなぜ、原発を推進する広告に「NO!」と言わないのか? タレントはなぜ、消費者金融の広告に出るのか? 代理店の人間は良心をなくしてしまったのか? と、鈴木さんは鋭く切り込みます。
元博報堂社員の本間さんは、そんな鈴木さんの問いに真摯に、公平な視点で答え広告業界の実情を語ります。そして、鈴木さんに対して、右翼はなぜ原発から国民を守ろうとしないのか? と問いかけます。二人の対話を読んで、彼らはこんな日本の現状を誰よりも理解しつつも、あきらめずに一人で闘いつづけているのだと感じました。
 「だれがタブーをつくるのか?」これは、私たち一人ひとりに向けられた問いなのです。無関心ではすまない。私たち一人ひとりが、自分の問題として受け止めることが、少しでも日本をよい方向へと向けることにつながるのだと感じました。


山本哲平
編集部所属。製作主任。自費出版系の作品を主に担当。仕事絡みの本以外、なかなか読む時間が取れない。ので、書評の題材に困りそう。

『悲痛伝』
西尾維新


 昨年発売された『悲鳴伝』に続く第2弾長編書き下ろし作品。分厚すぎて片手で読むのが不可能なほどの長編。
言葉遊びや言い回しの西尾節は健在なものの、今作は多少冗長な感じが否めない。できれば一冊完結のスタイルをとってもらいたかったが、しかたがない。とりあえずシリーズ化して次巻に続くので、もう少しプロットを詰めてくれれば、次はより読み応えのあるものになると思う。
 感情を持たない13歳の少年、空々空(そらからくう)が『地球と』戦い人類を守るという内容は、昨今の突飛な展開の多いライトノベルの中では、まあ、目立つものではないだろう。それでも、いつもの文体を好むファンなら読んでおいて損はない――と言っても、『化物語』系のキャラ同士の掛け合い漫才はほとんど無いので注意は必要だ。
 さて、西尾維新のファンとしては、こういったストーリーものも悪くはないけれど、初期の頃のような骨太のミステリーを読んでみたいとどうしても感じてしまう。そう感じる読者もきっと多いと思うのだけど、どうだろう。
それと、『りすか』の最新刊はいつまで待てばいいんですかね?